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大阪地方裁判所 昭和26年(ワ)3413号 判決

原告 坂口善治郎

被告 渡辺磐

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は被告は訴外犬飼次郎等二十九名と共有する大阪市東区谷町二丁目四十一番地の一宅地百七十五坪七合六勺の持分権並びに同地上東区役所検票番号第四二五号木造瓦葺平家建事務所建坪四坪六合の所有権の各移転登記手続をしなければならない。被告は原告に対し右事務所(東より四軒目)を引渡し且つ金五万円及び昭和二十六年十二月一日より右事務所を引渡すまで一ケ月金二万五千円の割合による金員を支払わねばならない。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め其の請求の原因として原告は昭和二十六年八月十八日被告との間に原告が被告より請求の趣旨記載の大阪法務局南側司法書士事務所及び其の敷地五坪六合を代金十二万円で買取り右代金の内金三万円は契約と同時に支払い残金九万円は同年九月十五日限り支払うこと登記手続は土地分割手続完了のとき実行することの売買契約を締結し即日被告に対し右代金の内三万円を支払つた。原告は同年九月十一日被告に対し右残代金九万円を持参提供したところ被告は司法書士会の内部に事情があるからと称し右代金の受領を拒絶し原告より再三履行を請求するも応じないので原告は昭和二十六年十二月十三日被告に対し右残代金九万円を弁済供託した。よつて本訴において被告に対し右売買契約に基いて被告に対し右土地につき被告の有する持分権及び被告の右事務所につき有する所有権移転登記手続を求めると共に右事務所の引渡を求め且つ原告が昭和二十六年七月司法書士の認可を受け本件売買の目的たる事務所において同年九月末頃より司法書士業務を開業する予定であることを売主被告に対し告知してあるから被告が右売買契約の本旨に従い右事務所を引渡すときは原告は事務所開設により一ケ月平均二十五日の開業日数に応じて一日の純利益金千円の割合による金二万五千円の利益を得べきものであるのに被告が故らに引渡義務履行を遅滞することにより同年十月及び十一月の利益金五万円及び同年十二月一日以降右家屋引渡までに一ケ月金二万五千円の利益を失い同額の損害を既に被り又被りつつあるから被告に対し右損害の賠償を求めると陳述し被告の抗弁事実を否認する。被告は昭和二十六年十一月十二日附書面を以て原告に対し本件売買契約を履行する旨の意思を表明したものであると附演した。<立証省略>

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁として原告主張の日時原被告間に原告主張の売買契約成立したことを認めるけれども被告は右売買の手附金として原告より金三万円を受領したものである。原告が其の主張の日時其の主張の弁済供託したことは認めるけれども其の余の原告主張事実を争う。被告は大阪法務局所属司法書士会員三十名の一員として原告主張の土地を共同で購入し各会員が右地上に事務所を新築すると共に相互の親睦と不正競争を防止するために昭和二十四年十一月規約を以て申合人が事務所を第三者に対し譲渡するには申合人全員の承諾を要すること若し其の承諾が得られないとき他の総申合人に対し時価を以て買取を請求することができる旨申合せていたため被告は原告との間に本件事務所の売買契約を締結する際事務所の譲渡については右規約により司法書士会員の承諾を得なければならない事情を原告に告げて右承諾を得ることができない場合を予測し原告との間に右売買契約解除に関する事項等を他日双方協議の上取極める旨契約したのである。しかるに被告は右売買につき規約による承諾を得ることができなかつたため昭和二十六年八月二十五日原告に対し其の事情を告げて右売買契約解除を申入れたところ原告は被告より先きに交付した手附金三万円の返還を受けて解除することを承諾し双方間に合意解除成立した。従つて原被告間に右売買契約の存続することも前提とする原告の本訴請求は理由がないと陳述した。<立証省略>

三、理  由

昭和二十六年八月十八日原被告間に原告主張の土地建物売買契約成立したことは当事者間に争がない。被告が右売買契約と同時に原告より金三万円と受領したことは原被告双方間に争がなく原告は右金三万円は売買代金十二万円の内金として受領した旨主張し成立に争ない甲第一号証には内金の記載があつて原告主張事実を肯認すべきようではあるけれども此の点に関する原告本人の供述は信用し難く却つて前記甲第一号証の未段記載と証人渡辺俊郎の証言に依り真正に成立したことが認められる乙第四号証及び同証人の証言並びに被告本人の供述に依れば右売買契約の目的である司法書士事務所の敷地は大阪法務局新設に伴い被告を含む司法書士三十名が共同して購入し各自事務所を新築するに際全員が規約を以て他日申合人が事務所を第三者に対し処分するときは予め他の総申合人の承諾を得ること若し過半数の承諾を得ることができないときは時価を以て他の総申合人に対し買取を請求することができる旨申合せていたので原告に対し右規約の事情を告げて他日司法書士会員の右規約に定める承諾の得られない場合を予測して右売買目的物の引渡時期等を他日右売買当事者双方間に協議して定めると共に右金三万円を手附金として授受し、右売買を履行する場合右手附金を代金の一部に加算することを約して右甲第一号証の領収証に内金と記載したことが認定できる。被告は昭和二十六年八月二十五日原告と合意の上右売買契約を解除した旨抗弁するけれども被告提出援用のすべての証拠によるも原被告間に被告主張の合意解除成立したことを認めることはできない。しかしながら証人犬飼三郎、同渡辺俊郎の各証言及び被告本人の供述に依れば被告が原告との右売買契約後原告に対する右事務所の譲渡につき右司法書士会員の承諾を求めたところ右申合人が原告が計理士、税理士の資格を兼有していることより不当の競業の生ずる虞あるを考慮し挙つて被告が原告に対し事務所を譲渡することに反対を唱え到底其の過半数の承諾を得ることの見込がないため、昭和二十六年八月末頃原告に対し右事情を告げて右手附契約に基いて原告より受領した右手附金だけを返還して本件売買契約を解除する旨意思表示したことが認定できる。甲第五号証は成立に争がない乙第三号証、同第五号証、甲第六号証及び被告本人の供述にかんがみるときは、いまだこれだけでは右認定を左右することができない。しかして別段の特約ない限り売買契約の売主がいづれかの一方が売買の履行に着手する以前手附金授受の契約により留保した解除権を相手方買主に対し行使するためには買主より受領した手附金倍額を現実に提供することを要することは勿論であるけれども、右に認定したように売買契約の締結に当つて将来売買を履行することの困難な事情が必然に発生することのある場合を予め告知して手附金授受の契約をするときにおいて右予測した履行を困難ならしめる事由が発生したため売主被告において買主原告に対し手附金の倍額を償還することの宥恕を求めるものと考えるにつき相当の理由あるものと認められるときは、売主被告が買主原告に対し本件手附金の倍額を現実に償還しないでした右売買契約解除の意思表示を全く無効のものと解すべきではなくむしろ前示解除の意思表示は有効であつてこれにより本件売買契約は適法に解除せられ原告は被告に対し先きに被告に交付した前示手附金三万円の倍額の償還を請求することができるものと認めるが相当である。果してそうであるならば本件売買契約がなお原被告間に存続することを前提とする原告の被告に対する本訴請求は他の点につき判断するまでもなし理由ないことが明白であるからこれを棄却すべきものとする。よつて民事訴訟法第八十九条に則り主文の通り判決する。

(裁判官 南新一)

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